中小企業の経営において「資金繰り」と「金融機関との関係」は切っても切り離せません。
実際、日本の中小企業のうち約7割は何らかの形で金融機関の融資を利用しているといわれています。
設備投資や新規出店のためだけでなく、日常的な運転資金の補填や一時的な資金ショートの回避など、融資は事業の安定を支える生命線となっています。
しかしここ数年で、融資環境は大きく変化しました。その背景には「コロナ融資」「金利の上昇」「不正防止の強化」という三つの大きな要素があります。
今回は、最新の融資事情を整理しながら、経営者がどのようにリスク管理を意識すべきかを考えてみましょう。
コロナ融資の功罪
2020年以降、新型コロナウイルス感染症による影響で、多くの事業者が「実質無利子・無担保融資(いわゆるゼロゼロ融資)」を活用しました。飲食店や小売業をはじめとする幅広い業種が対象となり、資金繰りを支える役割を果たしたことは事実です。
一方で、本来は必要のなかった運転資金まで借り入れてしまった企業も少なくありません。「今のうちに借りておけば安心だ」という心理から、数千万円単位の借入を行った店舗が、コロナ収束後に返済の重荷に直面しています。売上は戻りつつあるものの、借入金の返済が利益を圧迫し、思うように再投資ができないケースも増えています。
こうした状況は飲食業に限らず、サービス業や製造業にも及んでおり、いわゆる「借入過多」が経営の柔軟性を奪うリスクとなっています。
金利上昇の現実 ~ 「1%未満融資」の時代は終わるのか?~
長らく日本の融資環境は、歴史的な低金利に支えられてきました。2023年12月時点では、実に72%の融資が「年利1%未満」で実行されていたというデータがあります。つまり、多くの中小企業がほぼ「タダ同然」の金利で資金を調達できていたわけです。
しかし状況は変わりつつあります。日銀の政策金利の修正、長期金利の上昇、米国をはじめとする海外金利の影響などを受け、日本国内の貸出金利もじわじわと上がっています。すでに新規融資では1%台前半~中盤の金利提示が一般的になり、条件次第では2%以上を求められるケースも出てきました。
経営者にとって重要なのは「今後も返済可能か」という視点です。低金利時代の感覚で借入を重ねると、金利上昇局面では一気に返済負担が膨らむリスクがあります。特に長期借入や借換えを検討している企業は、金利の動向を常にウォッチし、複数の金融機関から条件を比較する姿勢が欠かせません。
粉飾決算への対抗 ~金融機関はAIを活用~
近年、金融業界を揺るがしたのが「粉飾決算問題」です。
数十億円規模の融資が虚偽の決算書に基づいて実行され、最終的に焦げ付く事案が全国で多発しました。従来は担当者の経験や勘に頼る部分が大きかった審査も、こうした事件をきっかけに大きく見直されています。
現在、複数の金融機関が連携し、AIを活用したデータ分析を導入し始めています。売上や利益の数値だけでなく、取引履歴、税務申告書、POSデータなど多様な情報をクロスチェックし、異常値をいち早く検知する仕組みです。これにより「表面上は黒字だが実態は赤字」というような不正を見抜く精度が高まっています。
経営者にとっては「ごまかしが効かない時代」になったともいえるでしょう。むしろ正直な経営を行い、透明性を高めることが金融機関からの信頼を得る近道となります。
経営者が今取るべきリスク管理
では、中小企業の経営者はこの変化の中で何を意識すべきでしょうか。大きく3つのポイントに整理できます。
- 借入内容の適正化
不要な借入を抱えていないかを再点検しましょう。返済が利益を食い潰す状態は、いざという時の打ち手を狭めます。借換えや一部繰上げ返済も選択肢に入れるべきです。 - 金利リスクへの備え
固定金利と変動金利のバランスを考え、将来の金利上昇に耐えられる資金計画を立てることが重要です。特に長期借入では固定金利を検討する価値があります。 - 財務の透明性を確保
粉飾の誘惑に負けず、正直な決算を行うこと。金融機関はAIを通じて情報を共有しているため、不正は必ず露見します。逆に透明性を高めることで、融資担当者との信頼関係が築け、追加融資や優遇条件につながる可能性があります。
まとめ
中小企業の経営環境は、かつてないスピードで変化しています。コロナ融資の返済負担、金利上昇の影響、そしてAIによる審査強化。これらはすべて、経営者に「従来の感覚のままでは危うい」ということを突きつけています。
融資は経営を成長させる強力なツールですが、同時に大きなリスクを伴います。金利上昇とリスク管理の時代において、いかに健全な財務体質を維持するかが、今後の企業存続と成長のカギとなるでしょう。