創業融資を申し込みした起業家の中で、「審査が厳しいと感じた」とおっしゃる方は少なくありません。融資担当者との面談で、「事業計画を説明してもなかなか理解してもらえなかった」「細かいことを質問された」「収支予測についてネガティブにみられた」という印象をもつことがあります。
実は、そのような印象になる背景には、次の三つの理由があります。
(1)金融機関は多くの「失敗起業家」をみている
日本政策金融公庫が融資をした後は、一部の起業家に対しては継続的に決算書などの提出を求めて業績をチェックします。対象者は、「中小企業経営力強化資金」という特別な制度を利用した方など、ごく一部に限られます。多くの起業家については、返済が遅れていなければ、業績を把握するケースは稀です。
一方、融資後間もないときに返済が遅れた融資先については、「審査に問題があったのではないか」という視点で、いろいろと検討がなされることがあります。つまり、融資後にうまくいっている起業家よりも、失敗している起業家のほうに注目してしまうのです。融資してすぐに返済が遅れるような融資先をつくると大きな問題なので、常に審査にフィードバックする必要があるからです。
つまり、融資担当者は、成功起業家よりも失敗起業家に関する審査時の稟議書などを振り返って見る機会が多いのです。すると、創業融資を申し込みした起業家に対する見方が、どうしてもネガティブになりがちなのです。
(2)融資担当者はビジネスに詳しくない
融資を申し込みする起業家の中には、融資担当者は商売や経営に詳しく、起業する業界や業種に応じて、それぞれ専門家がいて審査を担当すると想像している人もいます。ところが実態は、そうではありません。
融資担当者は、財務分析については勉強していますが、大企業に勤めるサラリーマンです。親が事業をやっていて手伝った人などごく一部を除けば、商売の実体験はないのです。つまり、ビジネスについて詳しいとはいえない人がほとんどです。
「業種業界の専門家」というよりも、様々な業種について広く浅く机上で勉強しているのが融資担当者です。最新のビジネスは、知識が追いついていないのが実態です。ですから、IT系など斬新なビジネスプランやこれまでにないビジネスモデルについては、起業家が説明しても理解が得られないという現象が起きてしまうのです。
(3)融資担当者は安易に前向きな発言をすることはできない
審査は、融資担当者だけで結論を出すことはありません。稟議書を上司がみて、最終的に「決裁権者」が判断することになります。融資担当者が「融資OK」にしようと思っても、上司に否定される可能性もあります。
融資の面談のときに起業家へ安易に「融資は大丈夫だと思いますよ」と言ってしまうと、後で覆されたときが困ります。日本政策金融公庫に限らず、金融機関の担当者が決まっていない段階で融資OKと思わせる発言をするのは、コンプライアンスに反することとされています。
つまり、面談のときには「融資がNGになることもありうる」というニュアンスにせざるを得ないわけです。