金融機関へ融資を申し込んだら、「審査」というものがあるということは、ほとんどの方がご存じだと思います。クレジットカードをつくるときと同様に、創業融資も申し込みしたら必ず融資してくれるというわけではありません。
審査とは、金融機関が融資の可否を検討するためのプロセスです。起業家が融資を受けるためには、審査にパスしなければならず、最大のハードルだといえます。融資を受けなければ起業できない人だけではなく、自己資金で起業できるけど「お金に余裕をもつために融資を受けておこう」という人でも、審査で落とされたくはないですね。
このハードルをうまく乗り越えるために、まずは金融機関で審査がどのように行われているかを知っていただきたいと思います。ここでは、創業融資を行う代表的な金融機関である日本政策金融公庫を例にとってご説明します。
起業家が日本政策金融公庫に融資を申し込みすると、1人の職員が担当することになります。審査のハードルを乗り越えるには、担当になった職員をうまく納得させることが一つのカギとなります。
たとえば、5名の融資担当者が集まる場面でプレゼンできるのなら、1人がネガティブな見方をしても、残りの4名が肯定してくれたら融資はOKになるでしょう。しかし、担当者は複数ではなく1人なので、目の前の融資担当者をいかにして肯定的見方、つまり融資OKと判断する気持ちにさせるかが重要です。
とはいえ、担当者がすべての決定権を持っているわけではありません。担当者は審査の稟議書を書いて上司に回し、最終的には「決裁権者」が融資の可否を決めることになります。「決裁権者」とは、通常は支店のトップですが、内容によっては本店の審査部門になることもあります。
融資担当者は、融資を申し込みした起業家から提出された事業計画書などの資料を見て、面談によるヒアリングを行い、分析した結果を稟議書にまとめます。稟議書には、融資をOKとするか、NGとするかの結論も記載して上司に回すのです。場合によっては、稟議書を回す前に、担当者と直属の上司や決裁権者が会議を行って方針を決めることもあります。
起業家が面と向かって話ができるのは融資担当者だけですが、上司である融資課長、次長、事業統轄(支店長のこと)などが、担当者の稟議書を見たり意見を聞いたりして「よし担当者の判断は正しい」と認めてこそ融資OKになります。ですから、融資担当者をうまく説得するだけではなく、その上の上司の眼も意識することも忘れてはいけません。
私は日本政策金融公庫で融資課長という立場にありましたが、部下である融資担当者が融資NGの稟議書を回してきたときに「いやこれは融資できるだろ」と覆すことがありました。
逆にまれですが、融資OKを融資NGに覆すこともありました。私にとって、創業融資の審査は、長年続いている企業への融資と比べて、判断に迷うことが多いものでした。なぜなら、起業はやってみなければ成否が分からないので、創業融資はリスクがとても高いからです。かといって、簡単に融資をNGにしたら、せっかく起業しようという意欲のある人の可能性をつぶすことになりかねません。
融資の決裁権者は、融資担当者の意見を尊重するのは事実です。しかし、起業家から提出された資料の内容によっては、融資担当者の意見とは異なる判断をするときもあります。そのときに判断材料として大きいのが「創業計画書」です。つまり、首尾よく融資を受けるためには、融資担当者を言葉で説得するだけではなく、決裁権者の眼を意識した「創業計画書」をつくることが非常に重要なのです。