創業融資を申し込む際に、「自己資金」が重要だと認識している方は多いと思います。
融資担当者は、自己資金の金額や総投資額に対する割合についてしっかりと確認しようとします。借入に依存して起業するよりも、自己資金が多いほうがリスクは低いという考え方があるからです。
自己資金は、「自分自身でコツコツと貯めたもの」というのが基本的な定義です。「資産」のうち、今回始める事業に投入する資金のことです。
融資担当者に説明するときは、明確な証拠資料が必要になります。証拠資料とは、銀行の通帳、株式投資や投資信託など金融資産の書類です。
現金を封筒に入れて「これが自己資金です。タンス預金にしていました」といっても、融資担当者は信用してくれません。どこからか一時的に借りたお金、つまり「見せ金」ではないかという疑いが払しょくできないからです。実際にタンス預金をしていたとしても、できるだけ早く預金口座に入金しておくことが大切です。
最近は、起業家にとって喜ばしいことに、必ずしも自己資金が多くなくても融資が受けられる可能性が高まりました。
日本政策金融公庫の融資制度における、自己資金の要件が大幅に緩和されました。無担保無保証人の「新創業融資」は、かつて「自己資金が総投資額の3分の1以上あること」を要件としていました。
たとえば、ラーメン屋さんを開業するのに600万円かかるとすれば、そのうち200万円は自己資金が必要で、残りの400万円が融資の上限でした。
数年前に制度が改正され、自己資金は「10分の1以上」となりました。
しかも、他のいくつかの条件をクリアしていたら、自己資金は0でもいいことになっています(とはいえ実際には、自己資金0で融資を受けられる可能性はかなり低いのが実態です)。自己資金が少ない起業家でも融資を受けられる可能性は高まりました。
私が日本政策金融公庫の創業支援部署の担当者にヒアリングしたところ、「自己資金と事業の成否には必ずしも明確な相関関係はないことが分かってきた」とのことです。以前は「自己資金の有無が事業の成否を左右する」というのが金融機関の常識でしたから、大きくくつがえす発想であり画期的だと思います。
また最近、日本政策金融公庫では、自己資金を幅広に見てくれるようになりました。若手起業家が純粋な自分のお金が少なくても、身内から出資したもらったお金も自己資金と同様に判断してくれるケースが増えています。
身内の方から出資をしてもらう場合、留意すべきことがあります。たとえば父親から出してもらう場合は、必ず預金口座に振り込みしていただき、通帳上に名前が出るようにすることです。現金で預かって自分で入金したら、どこからのお金か分からないからです。
また、融資担当者に対して、父親の名前、住所、不動産の有無、職業などについても具体的に説明しておくことが有効です。なぜなら、父親が出資する資力がある人物だという証拠になるからです。融資担当者は、父親が不動産を持っているなら登記簿を調べるなど、裏付け調査をするのです。
融資における自己資金の要件が緩和されたとはいえ、起業直後のことを考えると、借入依存の計画だと余裕がないのは事実です。
「起業前にできるだけ多くの自己資金を貯めるべき」というのは正しい考え方で、審査においても重要なポイントであることには変わりないと認識しておいてください。やはり、創業融資を申し込みするなら、総投資額の3分の1程度の自己資金を貯める努力は必要です。