ここまで、融資担当者の視点である「経営者としての資質」「財政状態」「収支見通し」の3点について説明しました。審査のチェックポイントが多岐にわたっていることをご理解いただけたと思います。
あなたは、「創業融資の審査をクリアするのは自分には難しそう」と嘆いていらっしゃるかもしれません。
でもご安心ください。これらのチェックポイントのすべてをクリアするような完全無欠の起業家はめったにいません。
既にご説明した通り、創業融資を申し込みした人の中には、融資担当者からみて「この起業家は誰がみても問題なく融資OKにできる」という層がありますが、全体の約15%にすぎません。つまり、チェックポイントをすべてクリアするような起業家は、とても少ないということです。
ほとんどの起業家は、いくつかのチェックポイントで十分とはいえない状態です。それでも、その他でうまくカバーすることによって、審査をパスすることは可能なのです。
たとえば、「財政状態」で資産が乏しい起業家であったとしても、「経営者としての資質」や「収支見通し」でプラスになる材料を積み上げるという方法が有効です。
事例を一つご紹介しましょう。
私が相談を受けた30代の起業家Aさんは、それまでの勤務収入があまり多くなかったので、資産といえば50万円ほどの預金だけでした。
普通はその状態で創業融資を申し込みしても、「自己資金が乏しい」と判断されて断られてしまうことが多いです。
Aさんは、派遣でコンピュータシステムの仕事に10年以上携わっており、銀行など大企業のシステム開発を行った経験がありました。
その間培ったスキルやノウハウを生かして、システム開発会社を起業する計画を立てました。
パソコンなどを購入する設備資金と人材確保のための運転資金が必要なので、500万円の創業融資を申し込みしたのです。
私がアドバイスしたことは、
①経歴上の強みをアピールすること
②すでに顧客を確保していることを強調すること
③身内の人から返済不要の資金を提供してもらうこと
の3点です。
Aさんの強みの一つは、職歴の中で大企業のシステム開発のプロジェクトリーダーとして活躍したという経験があることでした。この経歴を明記することで、高い技術力とマネジメント能力があることをアピールできたのです。
もう一つの大きな強みは、すでに5社の企業から「起業したらうちと取引してほしい」というオファーがあったということです。会社を設立する前だったので、まだ契約こそできていなかったのですが、融資担当者へ取引予定先企業の責任者との打ち合わせ資料を見せたことで、「収支見通し」の実現可能性を示すことができたのです。
それでも自己資金が乏しいことがマイナス材料として大きいので、父親から100万円を出資してもらい、融資担当者へ説明しました。
その結果、希望通りの500万円の融資を受けることができて、起業後も順調に推移しています。Aさんの勝因は、決して小手先のテクニックではなく、起業前に顧客を確保する、身内に出資をお願いする、といった努力をしたことにあります。
Aさんのように、自分の強みをアピールするとともに弱みはカバーすることで、融資を受けることは可能なのです。