私は、日本政策金融公庫の融資担当者になりたての頃に、先輩たちから「創業融資の審査ポイントは自己資金と斯業(しぎょう)経験だ」と口酸っぱく教えられました。
自己資金が十分あるか、始める事業に関する経験を十分積んでいるか、という2点が重要な判断ポイントであり、成功確率は高いという考え方です。
この2点は今でもチェックポイントの一部ですが、起業後の成否を判断する材料としては表面的すぎますね。それから年数が経過するとともに、日本政策金融公庫における創業融資の審査ノウハウは進歩し、多面的な視点で判断するようになりました。
その結果、創業融資を実施することについて、以前よりも積極的になったといえます。
現在、融資担当者がチェックするポイントは多岐にわたりますが、大きな視点としては「経営者としての資質」「財政状態」「収支見通し」の三つに集約されます。
「経営者としての資質」とは、経営者になるためのスキルやノウハウを身につけているかという視点です。起業すれば、サラリーマンではなく事業経営者としての能力が求められます。たとえば、事業内容に関する知識、マネジメント能力、経営戦略の論理的思考能力などです。
さらに、中小企業は社長とはいっても、接客や営業なども自分がやらなければならないケースがほとんどです。つまり、商売人としてやっていける性格や行動力の有無についても、それとなくチェックされることになります。
「財政状態」とは、身もふたもない話になりますが、お金の余裕があるかどうかという視点です。起業してもほとんどの場合、赤字か資金繰りが楽ではない状況がしばらく続きます。起業するのに借金に依存しすぎる状況であれば、厳しい状況を乗り切る耐久力が弱いという考え方です。
あるいは、すでに借入金があって返済負担がかなり大きい状況だと、その分より多くの利益を出さなければ事業を継続していけないことになります。
「収支見通し」とは、「起業して事業を維持して融資金が返済できるかどうか」という視点です。事業計画書の中で、売上、原価、経費を予測する欄があり、ここに記載している内容の実現可能性が問われます。
ここでは、事業計画がどれだけ練り上げられているものかという観点と、お金に関する知識(計数感覚)も問われることになります。
よく「創業融資を受けるためには事業計画書をうまく書くことが大切」といわれていますが、「経営者としての資質」「財政状態」「収支見通し」の三つの視点をうまく見せることが欠かせません。
事業計画書以外でも、担当者との面談で提出する資料やプレゼンにおいても、十分に意識しておくことが重要です。